研究テーマ;続きその2

自己形成型量子ドットの問題点

さて、前ページで、広く研究が行われている「自己形成型」量子ドットについてお話しました。この自己形成型量子ドットは、単に原子をふりかければ勝手に「箱」が出来てしまうので、非常に作製が簡単です。ただ、いくつか問題点があります。主な問題点3つについて下に掲げてみます。


1.量子ドットの出来る場所が不確定

自ら勝手に出来るという利点の裏返しであるのですが、あちらこちらで「ぐしゃっ」、「ぐしゃっ」、と潰れてしまうので、「ここで潰れなさい」と人間が指定できないのが難点です。最近はこの方面の研究も、盛んに行われています。

2.量子ドットの形が不均一

これも1.と関係しますが、各々の潰れ方がマチマチだったりすると、場所場所によって違う形、違う大きさの量子ドットが出来てしまいます。これはデバイス応用には不利です。この方面は早くから研究が行われていました。

3.原子の組み合わせによって、量子ドットにならない組み合わせもある。

前ページで紹介したGaAs、InGaAsの組み合わせでは、InGaAsが程よく「ぐしゃっ!」と行ってくれますが、他の原子の組み合わせでは、あまりうまくいかないこともあります。例えば、AlGaAs と GaAs の場合では、二つの物質で手をつなぐ間隔がほとんど同じなので、積み重ねても「ぐしゃっ」と潰れてくれません。このように、物質選択の自由度が低いです。





ピラミッド型量子ドットとは何か?

いよいよ、私の研究対象物質である「ピラミッド型量子ドット」の説明に移りましょう。
これについても説明は簡単です。上の問題点(特に問題点1.の位置制御)を解決するために、「あらかじめ量子ドットの出来る落とし穴を用意してあげて、そこに量子ドットを落とし込む。」これだけのことです。

さて、その落とし穴とは何か?下の写真が答えです。

きれいな「ピラミッド型」の落とし穴がたくさんあります。しかも規則正しく並んでいます。さて、この落とし穴を作ることでどのような利点があるのでしょうか。

1.量子ドットの位置制御が完璧にできる

原子をふりかける装置を使えば、量子ドットを正確に一つ一つのピラミッド内部に落とし込むことができます。「落とし穴」は人間が(僕が!)自由自在にデザインできるので、量子ドットの正確な位置制御が可能になります。

2.量子ドットの形が比較的均一

私達の構造の場合、量子ドットの形は、落とし穴の容器の形に左右されます。(これも話せば長くなるので割愛します。)ですので、はじめの落とし穴が均一ならば、出来る量子ドットも均一です。「自己形成型」と比べても均一性はより高いようです。

3.どんな原子の組み合わせでも量子ドットになる。

私達の量子ドットは、「ぐしゃっ」と潰れる(歪みの)効果を利用していません。ピラミッド内部の層構造がそのまま量子ドット(「箱」)になっています。そのため、量子ドットができる原子の組み合わせは幅広いです。

もちろん、「自己形成型」量子ドットにくらべて弱点もあります。それは、「量子ドットの密度が低い」ことです。前もってつくっておける落とし穴のサイズには限界があるので、そこが密度の限界です。しかし、まだ究極の密度までトライしたことはありませんので、具体的な限界の数字は分かりません。私個人の見解としては、100nmピッチ(〜10^10/cm^2)は必ず行くと思っております。

私は500nmピッチ程度の、やや密度の高いピラミッド型量子ドットを研究しています。現在(2003年10月)、研究開始から一年半が経過しました。現在

・自由自在な量子ドットの位置制御
・均一性の実証
・数値計算との比較による量子ドット形状の推測
・量子ドットとフォトニック結晶の融合
・励起発光スペクトルの観察

と、5つほどのテーマを、それぞれ別々の研究者の方々と共に研究を進めています。今が一番楽しいときかもしれませんね...。

研究解説はお楽しみ頂けましたでしょうか?私の意図としては(物理研究者ではない)一般の方々にも理解していただきたいと思い記述しました。どうぞ、「といいつつも、難しすぎて分からなかった」など、ご意見・ご感想がありましたら watanabe@dpmail.epfl.ch までお寄せください。



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